こんなにオシャレなお姉さんになったのに

2015年03月18日

女性

「うん、もう15歳だからね、おじいさんになっちゃったみたいよ」
「たまには会いに帰ってやれよ。きっとそんな美里香がいなくてさみしいはずだよ」
美里香の実家は日帰りできる距離である。
「それに、今度はそんな老犬を驚かさないで、こんなにきれいになったんだよー、って
報告しておいでよ」
卓也の言葉に美里香はちょっと照れる。
「じゃあ、とびきりおしゃれして、ベンに会ってくる」
「オッドアイはなしでね」
「でも、犬って、色がわかるかしら。白黒にしか世の中見えてないとか聞いたことあるけど」
そう言いながら、ディファインで瞳が大きくなっているのはわかるような気がした。

しばらくして、美里香は実家に顔を出した。
ベンは、ますます年老いて、玄関に寝そべっている。
「もう、年なのかしらね、最近、食も細くなってきて」
あんなに食いしん坊だったベンが、と、美里香は驚く。
母と話した後、眠たそうなベンの元に、美里香はそっと近づいていった。
「ベン、美里香よ、おぼえてる?」
まるでベンがボケてしまったかのようで、美里香は心配になる。
老犬は邪魔くさそうに顔を上げるが、しばらく、くんくんと匂いを嗅いで、それが美里香とわかったようだ。かすかに尻尾を振る。
美里香はなんだか泣きそうになった。
「ベン、昔はいたずらばかりしてごめんね。美里香、こんなにオシャレなお姉さんになったのに、なんでベンは老人になったの?」
そういう美里香の顔をベンはじっとのぞきこむ。雰囲気が変わったのはわかったようで
不思議そうに首をかしげる。
ベンの声がするような気がする。
―その瞳はなんなの?
「あ、これ、ワンデーアキュビューディファインっていうカラコン。カラコン通販で買ったの。きれいでしょ?」
―目の中に何か入れてるの?大丈夫?痛くない?
「うん、カラコンは安全なのよ。心配してくれてありがとう」
ベンはホッとしたかのように、美里香に顔を寄せる。
美里香は年老いたベンの頭を抱きしめた。
「ベンが私たちを育ててくれたんだね」
美里香の言葉を聞きながら、ベンはうっとりと目を閉じて、いつの間にか寝息を立てていた。


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Posted by 弘せりえ at 11:25│Comments(0)短編
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